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右手あっての左手

 私のお世話になった先生の一人がある門徒さんの話をしていた。
そのかたは事故で右手の切断を余儀なくされた。よりによって利き腕であったらしい。
先生はその門徒さんの落胆した様子を思い浮かべ、何と声をかけていいものか悩みなかなかお見舞いに行けなかったそうだ。

 しかし、どこかで思い立たねばと腹を決めて病院へと向かった。
ためらいながら病室のドアをノックして中へ入る。
「住職さんよくきてくれました」と笑顔で挨拶をすませた後にその門徒さんはこういったそうだ。
「右手がないと手を合わせて合掌することもできません。この年になったはじめてわかった。右手があっての左手だったんですね…」この言葉をきいた先生は深い感銘を受けたそうだ。

 普通なら自分に与えられていた右手を失うということは苦痛以外のなにものでもない。
もちろんこの方にとっても大きな苦痛だったに違いない。
しかし、この門徒さんは、苦痛を苦痛のままで終わらせていない。自分がいままで与えられていたものを失うことによって新しい視点が恵まれている。
失いつつも恵まれていく世界がそこに展開されている。

失ってはじめてわかるもの。手に入れてはじめてわかるもの。
そこには机上の空論や推測を超えた領域が存在している。

人生という道場で実践をとうしてしか学ぶことの出来ないことは沢山ありそうだ。


念仏は苦難の道を超える杖

(2005年5月『永照寺だより』より)
by bongu04200420 | 2007-12-17 08:58

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